戦国新報
 
 
平成7年 前期
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頭を下げて天下を取れるものなら
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 天下人の足場をほぼ固めた秀吉は、上洛朝礼を家康に促したが彼はいっこうに応じなかった。
 そこで秀吉はすでに人妻になっている自分の妹をむりやり離婚させ、家康の女房にしてもらう。ようするに人質である。だが家康は動かない。やむなく秀吉は実母を人質として送る決心をする。これには身内から反対の声が出た。家康は難敵といえ、たかが地方大名。関白である秀吉にどうしても応じないのなら、大軍を動員して討伐すべきだ。が、秀吉はあえて母親を人質として送った。武門の恥だろうが、外聞が悪かろうが、今ここで家康を配下に入れれば天下は九分九厘、手にしたようなものである。
 頭を下げてかなうものならいくらでも頭を下げよう。土下座しろと言われれば這いつくばって地面に額をこすりつけるくらい何でもない。恥とか体裁など問題外だと考えたのである。
 強い立場にある者が頭を下げるというのは、なかなかできない芸当である。これができるのは真の強者の貫祿である。相手が頭を下げたからといって、相手を見くびり、いい気になるほど家康も馬鹿ではない。とうとう重い腰を上げ秀吉の傘下に入ったのである。
 頭を下げるということは、その人の性格もあるが、常に感謝の気持ちが頭にあるなら、自然に頭が下がるのではないだろうか。このことを上に立つ者は忘れがちなのではないだろうか。
【文:高田 金道】